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とんぼ玉作家ガラスのさかなの「タワゴト日記」

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割れる?割れない?

 そういえば、数日前、このブログの記事のランキングに、熱の履歴⑤というのが入っていました。
 誰か、読んでくださったんですね。
 これを書いたのは、5年前だったようです。
 熱の履歴、長編になったのですが、興味ある方は、ぜひ、読んでみてください。
 こちら↓
 熱の履歴①

 この頃、割れる割れない話を、もう一度考えていました。
 割れる割れない話は、4つの要素に分解して考える必要があると思います。
 ①形状
 ②ガラスそのものの剛性
 ③溶着
 ④内部のひずみによる内部の応力

 ①については、同じ質の材料で、どの場所も均質であった場合、一か所弱い場所ができていないかという、純粋に形状の問題。
 ②については、同じ形状のもので、ガラスが違えば引っ張りなどの強度がどのくらい違うかという、ガラスそのものの強度。
 ③について言えば、素材のガラスが、均質な状態の強度を100としたとき、別々のガラスを解かしてくっつけた時、どのくらい良くなじんでいるかという問題
 ④について言えば、ある部分で、歪(ガラスの粗密のバラツキ)のために、内側に、引っ張り合ったり押し合ったりする力が働いてしまうという問題。

 で、ガラス作品を見た時、弱そうな場所というのが、数か所あります。
 くびれている所、ガラスをくっつけ合ったらしき所など。

 ガラスをくっつけ合った訳ではないけど、くびれているという場所の場合。
 まず、細いことで、形状的に弱い。・・・①
 さらに、細い所は、その両側の細くない部分よりも早く冷めるため、歪ができやすい。④

 ガラスをくっつけ合ったらしき所でくびれている場合は、さらに溶着がちゃんとできておらず、くっつけた境目のところで、分子レベルで手をつなぎ合っている数が少なく、弱くなる。③

 と、くっつけ合ってくびれている場所というのが弱いのは、弱くなる理由が、複数存在しているっていうことなんです。


 例えば、2つのガラスをくっつけました。
 溶着をちゃんとしようとする。
 そうすると、温度を一定以上に上げないと、分子レベルで、分子同士が手をつないでくれない。
 けっこうな高温にすると、分子レベルで良く手をつなぐ。
 そこそこ高温なら、ゆるっと手をつなぎ始めるので、しばらくその温度を維持しておいてあげると、かなり分子間で、手をつなぐ。
 とすると、本来、くびれなんて、そうそう残せないんですよね。
 なので、くびれの部分が、鋭くV字谷(これ、本当は、地理や地学の用語なんですよね)になっている場合、いったんくっつきあってしまったところにもう一回作為的に切り込みを入れて作ったV字谷でなければ、まず、溶着不良が疑われる。

 例えば、うちの弟が作っていたとんぼ玉本体にカメが乗っかっている玉の場合。
 玉とカメの境目は、良く見ると、割とくっきりとV字谷になっていました。
 大丈夫?と聞かれたら、大丈夫です。
 なぜなら、地玉のクリアガラスがドロドロになるまで溶かしてあって、電気炉で予熱したカメが乗っかっているから。
 ポイントは、地玉もカメも、そこそこボリュームがあるということ。
 境目がしっかり高温でくっつきあっているので、カメの側が熱くて硬かったとしても、地玉の熱が伝わって、カメの側も温度が高くなり、割と分子間で手をつなぎ合っているはず。
 地玉が高温でも、カメのボリュームがあるため、境目が高温でも、カメそのものが崩れることがないため、V字谷が残ります。
 そして、くっつきあっている部分の面積が広いので、その分強い。
 さらに、この完成品を、電気炉徐冷することによって、くっつきあった部分の周辺で起こる熱のムラによってできる歪をなくしているから。

 つまり。
 大きな物に細くて繊細な物がついている場合や、細いもの同士がつている場合では、くっついている部分にV字谷があるということは、温度が上がってなかった証拠なんですね。
 温度が上がると、細い部分が崩れれしまうはずですから。

 で、一か所こういうところを見つけたとする。
 良くつけた場所を、もう一回作為的に切り込みを入れているのか、最初から温度が上がってなくてくびれがくっきり残っているのかは、見れば大体分かります。
 作為的にコントロールして切り込んだのではない場合、そういうくびれを一つ見つけると、「割れそうだなあ」と、感じる訳です。
 なぜなら。
 そういう初歩的な、危険な個所を残してしまうということは、熱のコントロールそのものを、良く理解していない人が作ったという証拠な訳で。
 くびれているのは、くびれている場所だけの危険ですが、そこを残してしまうということが、他にも熱のコントロールが甘い個所がある可能性を、強く示唆しているからです。

 ただ。
 ガラスの種類によって、溶着の事情が違ってきます。
 物性の違いで、ちょこんとつけただけなのに、意外と良く手をつなぎ合っているらしいと感じるガラスもあるので。
 キナリのCシリーズなんかは、溶着が甘目かなあと思えても、意外とくっついている気がします。
 何故?
 熱の持ちが良いので、くっつけたときの一方が、相当柔らかく粘度が低い状態でくっつている場合。
 こういう感じというのは、分子間でもよく動いているんじゃないかなあと言う気がするからです。
 でも、確証がある訳ではなく、何となく、そんな気がするんです。

 そんな気がするようになった理由の一つは、ボロを使うようになってからかなあ。
 ボロは、内側に気泡が残った場合、それが不定型な物だったとき、外から必死で焼いても、焼いている個所から気泡までの厚みがそこそこあると、気泡が丸くなってくれない。
 焼いている表面が、相当な高温になっていても、気泡の位置までは、熱が届いていないような。
 届いていても、ガラスそのものが硬くて動きが悪い感じがして、表面を均すのにも、モールドに突っ込んで力技で均さないと、まだるっこしくて仕方ない。
 ということは、表面の形だけでなく、内部的にも、動きにくいんじゃないかなあという気がします。
 銀で、メタリックな部分ができて、それがクリアに挟み込まれた場合でも、メタリックな色のまま、割と残ってくれます。
 これって、ガラスが動いていない証拠のように見えるんです。
 ガラスが動いていれば、銀が、粒子状に散っても良いと思うんです。
 散ったら、コロイド状になるので、メタリックでなくて、霧や靄みたいになって行くはずで。
 ボロが、ドロドロになじんでいなくても、比較的割れにくいのは、もともとの強度が高いことと、膨張率が低いことで、歪による応力が、そんなに大きくならないからのような気がします。

 そうそう、モレッティは?というと。
 とても感じるのは、ガラスそのものの強度が弱いこと。
 サクいんです。
 これって、方言ですか?
 ウチの父が良く言っていた、サクい。
 粘りがないというか。
 板ガラスをダイヤホイールカッターで、スコアラインを入れて、パキッと割る時、ブルザイより割れやすい。ウロボロスは、硬かったです。
 他の、リンズ、ココモ、スペクトラム、フレモント、そのあたりのあらゆるガラスと比べても、楽に割れてしまう。
 一か所に力がかかった時の強度は弱いと思います。
 なので、溶着も徐冷も、しっかりやってあげないと、割れやすいと思います。
 そのモレッティで、大物や立体を作ってしまうイタリア人の巨匠の技術の確かさ!
 やっぱり、巨匠だと思います。

 まあね。
 どこまで?って話です。
 ただ。
 ルチオ・ブバッコや、ビットリオ・コンスタンティーニの仕事を見て、すごいと思う。
 そこに近づきたいと思う。
 そういう欲が、どのくらいあるのかは、人それぞれで。
 別にいいやっていう人がいても、それはその人の考え方だと思う。
 でも、上手くなりたいって努力して、上手くなれたら、嬉しいと思うけどなあ。
 そういううまい人が、一人でも多くこの世に存在する方が、何か嬉しいけどなあ。
 そういうすごい作品がこの世に一つでも多い方が、そしてそんな作品に出会えたドキドキ感を感じられる方が、何か、嬉しいし、世の中にはまだまだ素敵な物がたくさんあるんだと信じられた方が、世界が美しく見えるけどなあ。
 って、思う。
 私は、そう思います。

 最近、月に2回、とんぼ玉ミューアムへ、教室の先生をしに出かけます。
 そこには、ビットリオの作品もルチオの作品も、ローレンのすごいムリーニも、実物が飾られていて。
 めっちゃ、お宝。
 そんなものが、何気にある場所で。
 いつもいつも意識するわけではないけど、ふと、ぞくっと、震えが来る時があります。
 で、到達できない高い山を見上げて、世界はまだまだ広いと思う。
 簡単に到達できるほど世界が狭かったら、何か、つまらない気がする。
 ほんとに、奥が深いです。

 収拾がつかなくなって来たので、今日のところは、このへんで。(^^;


by glass-fish | 2018-06-11 02:10 | ガラスのウンチク